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40年前にマンションを購入した人の話

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か 若いうちに購入しないと長期間のローンが組めないと思い、家賃を払うよりも家を買ったほうが得だと考える「マイホーム信仰」。「タワーマンションが買いたいという「マイホーム信仰」」では、不動産のアドバイザリー業務に携わっている牧野知弘氏の話から、「マイホーム信仰」が今の時代にそぐわないのではないかと分析した。

 では、その「マイホーム信仰」が日本でどのように育まれていったのか? 40年ほど前にマンションを購入した私の実家を例として、今の時代との違いについて見ていきたい。

車めがけて走り出すこども

 私の親の購入動機は、実は私であった。当時アパートに住んでおり、建物は道路に直接面していた。小さな私は車が走っていると、喜んで車に向かって走り出していたそうである。これは危険だ。

「このままではこどもが車に引かれて死んでしまう」

 どうすればいいのか考えていたところ、敷地内に公園施設のある大型の分譲マンションができることを知った。ここならば車が走っていない、ならばということで急遽購入に踏み切ったのである。

 この時代、低層階のマンションから10階建て以上のマンションへと建物の高層化が進みだしていた。その始まりにあたる物件を私の親は購入した。 

 当時は住宅ローンも本格的には整備されておらず、銀行と公庫の二本立て、30年と35年でそれぞれローンを組んだ。ボーナス払い併用で月2万円。収入が月7万円に対し、住んでいたアパートの家賃が4000円であったことを考えると割高だったが、風呂があることと敷地内でこどもを遊ばせる事ができるという安全性を「買った」のである。

 この時代、全額ローンなど不可能であり、貯金を使って頭金や諸費用を支払い、契約して支払った場所で当時販売されて間もない「ジョイントマット」を見て、これなら床が安全だということで購入すると、全くお金がなくなってしまったので、カーテンを購入することができなかったという。

 これが実家のローン生活の始まりだった。

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インフレの時代

 私の親がローンを組んだ時代は、高度経済成長の色合いが濃かったときで、給与がどんどん上がっていった時代だった。実家の記録を見ると私が生まれたときには4万7千円だった父親の給与が、購入時には7万円と数年で金額が1.5倍になっていた。

 一方、郵便局の定額預金の利率は10%を越えており、10年預けると預けた金額の倍近くとなる一方、親が借りた住宅ローンの金利は8%という今では考えられない率だった。またバス代20円、インスタントラーメン(袋麺)25円といった今とは価値観の異なる時代。

「お金を貯めない人間はバカ」

 そう言われていた時代だった。物価もどんどん上がり「狂乱物価」と呼ばれ家計を圧迫する一方、土地の値段もどんどん上がっており、買えるのなら「安い今のうちに買わないと損」とされていた。仕事も多く、昇給の機会に恵まれ、「働かないヤツはバカ」とも言われ、みんな寸暇を惜しんで働いていた、そんな時代だった。

「働けば必ずよくなる」

 このように当時の日本では分厚い中間層が形成されたのである。これが後の「マイホーム信仰」を生む土壌となった。

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実家のローン生活

「この物件はやがて5倍の値段がつく」

 父親が物件を購入した頃、同じくこのマンションを購入した人からそのように聞かされた。その人は公務員であり、このマンションの造成に関わっていた人物だった。買った先から値段が上がっていくという「土地神話」。それが日本中に広がっていたのである。

 だから家を買えば財産が増えるということで、多少無理な住宅ローンを組んでも、家を買うべきという空気が生まれた。また多少無理であっても昇給やベア(ベースアップのこと、会社全体の給与体系のベースを上げること)によって払いがいずれ楽になるとされた。

 簡単に言えば給与5万円の人が月2万5千円のローンを組んだとしても、将来は給与が10万円になるので、家計に占めるローンの支払いの割合がどんどん減っていくと考えられたのである。これが当時の日本の常識となっていった。

 ただこういった地価の上昇は転売する人にとっては倍々ゲームで財産を増やす好機だったが、実家のようにローンを抱える家にとっては固定資産税の上昇を意味していた。父親の給与も昇給こそしていたが、固定資産税や物価の上昇、年々増えるこどもにかかる費用によって相殺され、家計が大変だったのには変わりがなかった。

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父親の転機

 家を購入して10年近く経ったころ、父親の環境に大きな変化が訪れる。勤めていた会社が傾いたのである。理由は収益性の落ちた会社にオーナーが嫌気が差して放り出そうとしたからだった。

 オーナーは放り出してもいいかもしれないが、働いてる従業員らはそれでは困る。会社は曲折の末、従業員らによって運営されることになったが、この過程で多くの従業員が会社を去り、最終的には半数程度となってしまった。

 その際、5人いた事務所の経理担当者が全員辞めてしまったので、現場に立っていた私の父親が事務所に入り、一人で経理を見ることになったのである。父親は生活のために会社に残ったのである。

 だがこれによって会社の経理を触ることになった父親は、オーナーの去った会社の融資枠の確保のため、会社の資産形成に力を注いでいく事になる。そうした動きが実って会社の経営は安定、やがて経理担当の役員待遇となった。家のローンを組んでから20年近くの歳月が流れていた。

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人生の仕上げ

 役員となった父親は当たり前だがボーナスはなくなったものの、それまでの給与の倍となり、ローンを組み始めた時期から給与は10倍近くとなった。

 一方家計の方は母親が生活レベルを上げないという方針の元、生活にかかったお金以外は全て残していたので、貯蓄額がローン残高を上回っていた。ならばということでローン一括返済し、晴れてローンの支払いを終えたのである。

 更に家を購入して25年くらい経った頃には給与が役員になった当初の1.5倍と積み増されたことから、子どもたちの独立も相まって、引退後を想定して室内のリフォーム計画を立てた。

 台所と洗面所、トイレと風呂場という水回り、住居スペースと計3回に分けた全室リフォームは家の購入代金を上回る出費となったが、それでも引退後の老後の資金を残すには十分な収入があった。そして父親は役員を退任し、嘱託社員を経て会社を去ったのであった。

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おわりに

 父親の生きた1960年代から90年代は、我々の生きている1990年代から現在と違い、経済成長とインフレ、そして高金利時代だった。価値観や考えていること、心配することなどが今と全く異なることが、この話だけでもわかる。

 それに収入の伸びが私の父親が特殊なのではなく、珍しいことでもなかった点も注目すべきことだろう。将来収入が増える、という発想が社会の常識であり、確実性が高かったのである。こうした背景が「マイホーム信仰」を生んだ。

 給与が今の十倍になる。今では全く信じられないことが普通に起こっていた時代ならば、無理な長期ローンが組まれるのも無理はない。だが、そんなことが起こるとは思えない今、同じ発想で「長期ローンを組む」事自体に大きな問題があるといえよう。

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Vivente
現役クリーニング事業者。妻と二匹のネコと暮らしながら、整理術やくらし術、生活家電や機器、、著名人のなどの研究を行っている。プロフィールはこちら

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