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水洗いOKなのにフェルト化した毛のシャツを戻す

投稿日:2017-05-21 更新日:

 服の内側についている洗濯表示。これを信じて洗ったのに裏切られた、なんて話はクリーニング屋では日常茶飯事である。ドライ✕なのにドライで洗える服、あるいは洗わなければならない服がある一方、水洗い表示可であるのに洗ったら毛がフェルト化してガサガサになってしまう服もある。今回、お客様から依頼があったのはそのケースだった。 

縮んだシャツ

縮んだシャツ

フェルト化したシャツ

フェルト化したシャツ、見る人が見たら縮んでいるのがわかる

 ご覧のように水洗い表示可の毛100%のウォッシャブル加工の厚手のシャツ。ところがお客様自身の手で洗うとカチカチになったのでなんとかして欲しいと、依頼票が入っていた。実は毛は厚手であればあるほどフェルト化しやすい。だから薄手は水洗に落としやすいが、厚手の場合は慎重に考えなければならない。

 この品物はルートの問題でこれを受け取ってから4時間後に出荷しなければならないので、早々に段取りを開始した。

水洗可なのになぜ縮む

 そもそもこれは表示の説明が不足している。水洗いとは言ってもウェット洗い(いわゆる家庭洗濯機でのドライ洗い)と指定したかったのだろうが、表示をみたお客様は洗濯機でガラガラ回してしまったのだろう。

 製造側ももっと丁寧に書けば良かったのかもしれないが「生地が縮む恐れがあります」とアリバイ工作をしているような有様なので、お客様の方はどうせ見て洗わないだろうとタカをくくっているとも考えられる。

 いずれにせよ、一度フェルト化した毛は100%「は」戻らない。これは繊維の糸同士が水と機械力で絡んで複雑にしまっているからで、元のような繊維の状態には戻せないのである。しかし、ある一定まで柔らかくしたりすることは可能なので、着用レベルを目指して対処する。

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前段取り

 事前に水洗いをしてしまっているので、まずはドライクリーニングで洗う。こうして油性汚れをとっておいて、乾燥後に水洗加工を行う。水でなったものは水で直すのが基本中の基本、水に動物性繊維仕上剤と水溶性ポリマーを入れて被洗物を浸し、10秒程度の短脱水を行う。

 ここから仮仕上げに入る。まず基本アイロンでは「伸びません」。つまり水洗トラブルによる衣服の修繕は機械力、設備力がモノを言う。だから設備力がない業者は水洗できず、ある業者は可能ということになる。

 加工後、魔改造しているYシャツ仕上機にセットして強制乾燥する。この際、プレスゴテは一切動かさないようにしなければならない。あくまで機械内からの熱風吹上のみで乾燥する。

 こうすることで袖部分がほぼ原寸まで均一に伸ばせる。7割から8割の乾かしで仮仕上げの工程は終わる。

仮仕上後

仮仕上後、前部分を仕上げが必要

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予備仕上げ

 仮仕上げが終わると、次はドライ系プレス機で機械プレスする。アパレル系仕上げ機があればそれで対処できるが、一般のクリーニング業者で設備を持っているところは皆無で、その場合は他の機械で対処する。

 当方ではズボンプレス機があり、それを使って襟、両前立を裏側からプレスする。この際、最後まで押し切らず途中であげなければならない。裏側からプレスするのは、いわゆる「アタリ」や「テカリ」を最小限にするため、プレス途中でやめるのは繊維を潰さないためである。

 この作業は手アイロンで行えばヨレヨレとなって、生地がパシっとならないので機械プレスで行わなければいけない。それが終わると、ドライ系立体成形仕上機に服をかけて仕上げる。

成形仕上機にかける

 今はこの3つの工程を一台でこなす機械がある。三幸社のブラウス仕上機MF-300Jがそれだ。これ一台でブラウス、各種デザインシャツ、ポロシャツ等が短時間で仕上げられる。

 実機稼働の仕上げ。白衣や作業シャツもほぼノーアイロンで仕上げられる。(動画は宮城県の神奈川クリーニング様)

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再ドライ

 成形仕上機によって内側から蒸気で蒸らし、吹上を行ったことで毛が起毛し、前立もしっかり伸びた。ここで再度ドライクリーニングを行う。これは繊維がほぐれた状態で、ドライ溶剤中に入っている仕上剤を効かせて、服のハリを戻すためである。

 普段はここまで行わないが厚手の生地の場合、行った方がいいケースがあって、今回はそれにあたる。短時間洗いを行った後、乾燥をかけ、終わったあとはハンガー吊りにしてスチームボックスに通し。袖カウスとタック部をアイロンで軽く仕上げて終わった。

  一度このようになると、ある程度衣服を復旧させるのにこれだけの手順を踏まなければならない。ですので、毛の品物の家庭水洗は普通のやり方ではおすすめできない。

 またドライクリーニングについては最近「落ちない」とかそういうイメージがあるようだが、単に洗浄という要素以外にも、こういった加工という要素もあり、水洗トラブルが発生した際には被洗物の風合いの復活などを強力にバックアップする。

 なんでもそうだが、必要だから存在するのである。

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Vivente
現役クリーニング事業者。妻と二匹のネコと暮らしながら、整理術やくらし術、生活家電や機器、、著名人のなどの研究を行っている。プロフィールはこちら

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