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今後の日本におけるドライクリーニングの展望 1

投稿日:2017-05-14 更新日:

 エントリー「当方のドライと水洗の比率の推移」で述べたように、少なくとも日本国内では急速に「ドライクリーニング需要」が喪失していることは、クリーニング業者誰しも異論がないだろう。

 高齢化に伴う着用動機減、分厚い中間層の喪失、生活スタイルの変化、衣服のカジュアル化等々、挙げればきりがないが、日本国内の「ドライクリーニング需要」は間違いなく喪失している。では今後、日本のドライクリーニングはどうなっていくのか、私なりの考えを2回にわけて書く。

半世紀前のクリーニング事情

 業界の古老によると昔、町のクリーニング屋(洗濯屋)では「ドライ価格」というものがあったという。当時、町にはドライクリーニングで洗える機器を備えるお店はなかった。というより、ドライクリーナー(ドライ機)すらなかったのである。

 では背広やコート、セーターなんかはどうしていたかというと、普通に「水」で洗っていたというのだ。ところが縮んだり、油汚れが取れてなかったりするということで、大事な品物は縮まず油がよく取れるドライ設備を持つ工場(ホールセールという)に外注した。

 そのため、今とは逆で(水洗い指定だとウェット指定料金がある場合が多い)料金設定がドライの方が高かった。当時は背広は仕立てしかなく、作るのに数カ月分の月収相当したというから、高くてもお客様はドライ指定をされていたそうである。

 ホールセール業者はプラント型のドライ洗浄設備を持ち、鉄道などの法人向けクリーニングは直接取り引きを、一般向けのドライクリーニングの仕事は専ら業者周りを行っていたそうである。白洋舎などはホールセールの代表的な企業だった。

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パッケージ機の登場

 1960年代後半、業界に画期的な機械が登場する。ドライクリーナー(ドライ機)の登場である。このドライ機は従来のようなプラント式ではなく、一台の機械を購入して設置するだけでドライクリーニングが出来るという点で革命的商品であった。

 日本のメーカーでは三洋電機や稲本製作所が4キロの石油機を製造し、三菱重工はドイツのメーカーから有機系ドライ機を輸入販売した。高度経済成長で分厚い中間層が成立し、高まるドライ需要の中で登場したパッケージ機は高額(現在の5倍以上の価値)だったにも関わらず爆発的に売れた。

 このドライ機の登場は業界構造を大きく変化させる。町の洗濯屋は機械と店が同居する製販一体型のクリーニング店「ユニットショップ」となった。対してホールセール業者の方が町の同業者からの下洗いが激減したため、出店を作って時代の変化に対応した(取次店集中工場方式)。

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拡大したクリーニング需要

 その後の業界は二度のオイルショックで石油製品不足に悩まされた経験から、比較的体力のある業者は石油機より高額な有機系ドライ機に転換するなどし、日本の成長と共にクリーニング業界は大きくなった。それに伴い、乾燥機、プレス機等々の設備を随時拡充し、アイロン一本だった仕上げ環境も大きく変わった。

 変わったのはクリーニング業界だけではなく、服を扱うアパレルでも同じで、ドライの普及によって以前に比べ縮みを考慮せず服を作れるようになった。つまり昔より少ない生地、あるいは使えない部分をなくして服の製造が行えるようになった。 

 新素材の開発によって水で洗えない繊維が増えたこともドライ需要の増大に寄与した。人々はより革新的な服や素材を求めたのだ。繊維を巡る様々な問題を抱えつつも業界規模は拡大を続けたのである。

 かつて欧米に学んだ日本のクリーニング業界は、年々増える需要を背景とする投資と業者間の競い合いの中で1990年代には世界で最も先進的な技術力を持つに至った。

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縮小を続けるクリーニング業界

 ところがバブル経済崩壊が業界にも影を落とす。日本の産業構造の変化が長年右肩上がりだったクリーニング業界に影響を及ぼす。20年以上拡大を続けた業界は、今度は20年以上縮小を続けているのだ。まるで大きくなった風船がしぼむように。そして拡大する兆しは露ほども見られない。

 クリーニング業界の縮小は業界周りの風景をも一変させた。長年業界に参画してきた三菱重工は去り、三洋電機は無くなった。需要の急減により業界の機械資材関連企業も次々と撤退、廃業、そして倒産した。日本の業界内で技術をクリーニング進歩をさせるエネルギーは失われてしまったのである。

 業界人の過半は60代を越え、その多くが廃業するだろう。売上も利益も後継者もなく、もはや生活以外に続ける理由が皆無だからである。動けなくなればそれで終わり。8割の業者はそうなるとの意見もある。

 一方、体力の残っている企業は、薄くなったとはいえ空洞となった町へ店舗の出店を続けるだろう。1店舗あたりの売上は減っていく宿命を背負っている以上、トータルの需要を獲得する「沖引網」戦法で需要を獲得していく以外に生き残れる方法がないからである。

 ではそれができない零細業者はどうしていけばいいのか? 結局のところ恐竜時代の哺乳類のように這い回って生きていく以外にないのではないかと思う。大手が掴めない需要を掘り起こすなどして何らかの方法で生き残り、業界風景が変わりきった後に生きるべき道が見えてくるかもしれない。

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おわりに

 今回は日本のドライクリーニングの歴史を紐解き、主にドライと業界をとりまく環境について書いた。次回はこれを踏まえ、近年の家庭での洗濯機器等からドライクリーニングの見通しを考えたい。

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Vivente
現役クリーニング事業者。妻と二匹のネコと暮らしながら、整理術やくらし術、生活家電や機器、、著名人のなどの研究を行っている。プロフィールはこちら

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