ドライクリーニング略史 最新情報

ドライクリーニングの歴史 9 回天期

投稿日:2017-07-13 更新日:

 1987年(昭和62年)、クリーニング業界に衝撃が走った。いわゆるオゾン層を守ることを目的とした「モントリオール議定書」によって、オゾン層を破壊する物質として「フッ素」と「エタン」が指定され、全廃に向けた取り決めが行われたのである。日本は遅れて翌年に加わり、これら指定フロン類の規制法を制定、製造禁止が確定した。

 これによって日本で普及の進んだ「フッ素」と「エタン」という2つの溶剤の未来は閉ざされた。特に当時のクリーニング設備の一割を占めた「フッ素機」の代替法は、これからの業界動向を占うものとして注目された。時代はバブル全盛期、各社各陣営はそれぞれの思惑の中で動き出した。

ポスト「フッ素」の4つの道

 クリーニング業界では全廃されるフッ素の代替として、4つの案が示された。

  1. 代替溶剤で対応
  2. パークで対応
  3. ゾールで対応
  4. ウェットで対応

 当初、フロン類全てが廃止されるのではなく「特定フロン類」のみであるということで、「フッ素」の代替溶剤で対処できるのではないかと見通すものが少なからずいた。現に131bやAKー225といった代替溶剤が業界内では流通した。

 機械のパッキン等を変えれば使えるとの触れ込みだったが、実際にはフッ素に比べ使用感がイマイチだったり、値段が高かったりと、あまり好評ではなかった。また「代替溶剤」であったため、遠からぬ未来に製造が中止され全廃される(オゾン層の破壊係数が低いため、つなぎ役として一時使用が認められた)ため、代替溶剤に期待する声は次第に萎んでいった。

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パーク強化路線

 三菱重工はパークフッ素兼用機「トリオ」を多く出荷した経緯から、このトリオのユーザーに対し、フッ素全廃後の対応方法を半ば示さなければならない立場に置かれていた。

 その結果、三菱重工が出した答えは「パークで対応する」であった。実は欧米では概ねそうした方向で動いていたのである。ところがパークの規制は年々厳しくなっており、排水規制は強化されたのに加え、排気規制も行われるようになった。

 排気規制とは、乾燥工程を経た後の冷却工程で「脱臭」のために乾燥ドラムの空気を外に排出していたのである。これを実質的に排出できなくなるレベルの規制が敷かれた。

 これに対し三菱は「完全クローズド」技術を確立し、機械内でパークの殆どを回収できる機械を作った。また回収能力を高めるために導入した冷却機能を転用し、タンク内を10℃以下に保って洗う「マイルド洗浄」を行えるようにし、従来パークでは難しかったデリケート品があらえるようになった。更に排水を全蒸発させ「無排気、無排水」を実現し、このとき技術的に世界最高レベルに達した。

 三菱重工はあくまで「世界標準」「有機溶剤」にこだわったのである。

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石油系ホットマシン

 対してゾールでの対応をとの声に押される形で動いたのは東京洗染工業所(東洗)や三洋電機であった。東洗はゾールを有機溶剤と同じように洗濯後に乾燥したり、蒸留できる石油系ホットマシンの開発に成功した。引火性溶剤であるゾールを蒸留できるようにするために窒素封入システムを導入し、安全性を確保した。

 一方、三洋電機はエタン機を発売していた経緯から、ゾールのホットマシンの開発に着手。こちらは洗濯乾燥のみのホットマシンとなった。この二社が牽引力となって、ゾールの蒸留器や回収乾燥機を各社が製造するようになり、ゾール陣営は「ポストフッ素」への布石を打っていったのである。

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ウェットクリーニング

 そうした動きの中で、水でドライ品を洗うというウェットクリーニングが次第に注目を集めるようになった。80年代に確立した資材を使った「繊維防縮技術」によって相当数のドライ品が水洗可能であることが明らかとなってきたことで、従来のドライでは落ちにくい水溶性の汚れの落ちなどから、衆目を集めることになった。

 ただ、仕上げ技術が確立されていない部分があり、一部の品物の上がりの悪さや洗いや仕上げの手間による生産性の低さによって、メインストリームの地位を得るには至らなかった。

 しかし汚れ落ちや洗い上がりの良さから「ウェットクリーニング」はクリーニングの一分野として広く認識され、その名は広く定着していく。

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ホームクリーニング業界の栄光

 「フロン問題」を尻目にして業界の売上は伸長を続けた。バブル経済の崩壊が伝えられようと、フロン問題でフッ素が使えなくなるようになろうとも、パークの規制が強化されようと業界の売上は伸び続けたのである。

 そのため、ドライ溶剤の清浄に使うカートリッジ等が全て「特別管理産業廃棄物」の指定を受けるなど、業界の足元からの縛りを受けたとしても多くの業界人は鈍感だった。

 何が起ころうと売上が増え続ける、そうした環境によって業界を取り巻く問題に対して鈍感になってしまっていたのかもしれない。そして様々な規制を受ける中、クリーニング業界の売上は初めて減少に転じる。

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Vivente
現役クリーニング事業者。妻と二匹のネコと暮らしながら、整理術やくらし術、生活家電や機器、、著名人のなどの研究を行っている。プロフィールはこちら

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