ドライクリーニング略史 最新情報

ドライクリーニングの歴史 7 熟成期

投稿日:2017-07-11 更新日:

 1980年代のクリーニング業はドライ溶剤が従来のパークとゾールに、フッ素とエタンの2つの溶剤が加わったことで活況を呈した。またクリーニング需要は右肩上がりに年々増加し、特に都市部では地価高騰により容易に拡大できない作業スペースの中で、更に高い生産性を求めていた。

 そんな中、ドライクリーナーを製造していた三菱重工ではドライクリーニングに関する、ある研究が行われていた。

三菱重工業名古屋研究所

 三菱重工業は業務用洗濯機部門を名古屋に置いていた。その名古屋研究所で狭小店舗での高い生産性を生み出す溶剤運用技術が研究され、その開発に成功。新たな洗浄機械が作られた。

 「TRIO」

 新しいドライ機はそう名づけられた。パーク、フッ素、エタンという3つの有機溶剤を混ぜ合わせ使うことから、三重奏を意味する「トリオ」と命名されたのである。型式名は「MR」。奇しくも後年三菱重工が取り組む航空機と同じ名が与えられた。

 そのトリオ(MR)とはいかなるドライ機なのか。最も売れたパークとフッ素の混合タイプを例に取ると、従来のフッ素より洗浄力の高い液で洗い、パークより乾きの早い液ですすぐことで、パークに比べ1.3倍の高い生産性を持つ洗いができる。これがトリオの強みだった。つまり洗浄力はフッ素より上、生産性はパークより上という洗浄機が誕生したのである。

 このトリオが発売されると、都市部を中心に大いに売れた。メインの顧客はユニット店舗。パーク機とフッ素機、あるいはパーク機とゾール機という二台のドライ機が欲しくとも置けない店がオール・イン・ワンとしてトリオを選んだ。こうして狭小ユニット店は増大する需要をトリオ機で捌いた。

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トリオの技術

 トリオは混合溶剤という新しい発想から、従来のドライ機にはなかった技術が多く用いられた。まず基本的な構造だが、パークとフッ素を混ぜ、フッ素の特性に近いF液とパークの特性に近いP液の2つの液を作り、それぞれ別タンクに入れる。一洗でP液で洗い、二浴でF液で洗うことにより乾燥を高速化する。

 ところが乾燥が早くなれば、次に洗う際に一浴目の蒸留が間に合わない。日本の従来の有機溶剤のプログラムでは一浴目は蒸留、二浴目はフィルター循環が一般的だったが、そのシステムが使えない。そこでトリオでは「部分蒸留」という概念を導入し、半分を戻し半分を蒸留、あるいは3分の1を蒸留し、残りを戻すなどの方法で生産性を維持した。

 しかし、そのかわり液が全量蒸留できず、液の汚れを除去できない問題を対処するため、乾燥工程中に開いているポンプを活用し、フィルター循環を行う「裏工程プログラム」を作り、この問題を解決させた。 蒸留の方にも工夫があった。P液とF液を振り分けるためにセンサーを備えて、蒸留点を二段階とし、これを制御する仕組みを作った。

 このような制御には先んじて導入されていたマイコンシステムが有益に働いた。これによって同時期の他国のドライ機に比べ、かなり自由な制御が行えるようになっていた。日本のクリーニング関連機器はこうした影響を受け、以後センサーや制御弁、シリンダーを多用するメカニック路線に転じていく。

 ただある三菱重工の技術者はこう呟いた。「溶剤特性を考えれば、本来ならばパークはパーク、フッ素はフッ素、それぞれの機械を置くのが一番だ。それを一台にしたのは日本の業界の経営事情。技術的に見れば結局は『帯に短し襷に長し』になる」と。

 トリオは右肩上がりの地価高騰と経済状況が生み出した「時代の機器」だった。

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ドライを取り巻く諸問題

 公害問題について法整備が進む過程で、クリーニングで使われる溶剤もその規制の対象となった。パークは地下への浸透の強さが明らかになり、水質汚濁法の規制物質となり、順次規制が強化された。

 ホットマシンでは蒸留後、気化した溶剤を冷やして液化したり、乾燥工程で空気を温めながら冷やしたりして溶剤を回収しているが、その際に水も液化するため溶剤と水の比重を利用し、水分離器をつかって分離していた。

 溶剤はタンクに戻すが水は排水するのだが、この「水」が曲者で、水とパークが完全に分離できず、水の中にどうしてもパークが入ってしまう。これに規制がかかったのである。その対策に「曝気処理」や「吸着処理」を行ない対応した。 

 このことに関連してゾール派の一部からは「毒性のあるパークよりも安全なゾール」との声が上がったが、ゾールも引火性溶剤として既に様々な規制を受けていた。まず建築基準法で新規設備は工業地域と準工業地域に制限されていた。また消防法では溶剤保管について200L制限がかかっており、色々制約があった。しかしその実態は行政側の把握不足によって、殆ど認知されていない状態にあったのが現状で、そのような規制があること自体を知らない者も多かった。

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成長を続ける中で

 様々な問題を内包しつつも、続く日本の経済成長に背を押され、ホームクリーニング業界は右肩上がりの成長を続けた。売上の伸長に伴い、業者も増加。設備を有するクリーニング業者は6万社を越え、全国の営業店舗は30万軒に達したと言われた。

 その一方で、業者や店舗によってクリーニングの品質に大きなバラツキがあり、利用客の不満が高まる傾向となった。具体的には汚れ落ちや仕上げといった技術的な不満と、接客や納期といった営業的な不満が大勢を占めた。

 特に「汚れ落ち」に対する不満については「洗濯屋」の核心部分であり、この部分について様々な取り組みが行われるようになった。具体的には「シミ抜きガン」や「超音波」、「スチームガン」といったシミ抜き設備の導入や、水溶性の汚れを取るための水洗への取り組みだった。

 欧米と違って高温多湿な日本では、汗の汚れを始めとする水溶性の汚れが衣類に付着し、こうした汚れはドライクリーニングのみでは取り切れなかった。特にゾールやフッ素はドライ溶剤の中では洗浄力が劣っていたため、水洗で補う「Wクリーニング」の研究が進められた。

 一方、一部で洗いにくい衣料のあるパークでは、そうした衣料を水洗処理していく研究を行うものがおり、こうした取り組みがやがて「ウェットクリーニング」へと繋がっていく。また水洗方法として、従来からある浸け込みに加え、気泡洗浄、シャワー洗浄といった設備を用いての洗いが研究された。

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Vivente
現役クリーニング事業者。妻と二匹のネコと暮らしながら、整理術やくらし術、生活家電や機器、、著名人のなどの研究を行っている。プロフィールはこちら

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