ドライクリーニング略史 最新情報

ドライクリーニングの歴史 4 相克期

投稿日:2017-07-03 更新日:

 ドライクリーナーが日本で本格的に普及し始めたことによって日本のクリーニング業界は大きく成長しようとしていた。その一方で業界内の利害関係が強まり、様々な対立が起こった。

街にドライがやってきた

 コールドマシンやホットマシンの普及は、クリーニング業界の構造そのものを大きく変えた。それまでドライを外注していた洗濯屋はドライ機を導入したことにより、単価の取れるドライ品の自家処理を行うことによって、従来より大きな利益を得ることができるようになった。

 逆にこれまで洗濯屋からドライ洗いを請け負っていたホールセールはそれまでの仕事を失い岐路に立たされた。ただホールセール会社は設備力と資本力を持っていたため、業務転換を行なって生き残りを図った。

 転換内容には大きく分けて二つあり、一つは皮革や毛皮、カーペットといったドライ設備を入れただけでは処理しにくい、あるいは処理できないものを業者から請け負って処理する特殊クリーニング分野に転換した業者、そしてもう一つは街に受付のみ行う取次店を作って、直接お客様の品物を扱う業者である。特に後者は数十から数百の取次店を擁する「集中工場」と呼ばれる方式に発展していく。

量産の為のコンベアーシステム

 一方、ドライ設備を導入した業者の中には飛躍的に伸びた受注量を処理するため、それまでの得意先周り(訪問外交)を取りやめ、作業場内の受付場を整備して店舗とし、お客様に直接持ってきてもらうように転換を図った者が現れた。これは月水金を作業、火木土を得意先周りといったような作業では受付も作業も捌ききれなくなったことに起因する。こうした店舗と作業場、製販一体の形態を「ユニット」方式と呼び、業界で大きな流れとなっていく。

目次に戻る

増える新規参入と業態変化

 ドライクリーナー(ドライ機)の登場はクリーニング業界への新規参入を促進させた。「これ一台あればクリーニングができる」というインパクトは大きかった。その中でも特に多かったのが「洋品店」の参入で、アパレルメーカーの台頭によって街の洋品店の客足は徐々に遠のき始めていたタイミングでのドライ機登場は、衣服への理解のある洋品店経営者にとって理解しやすく魅力的な話で、転換を行う者が相次いだ。

 また洗濯屋では昭和30年代に上京し、店に入って働いていた者たちが「暖簾分け」という形で次々と独立した。これはドライ機の登場で独立しやすくなったこと、機械化によって親方の店に以前に比べ人員が必要なくなったことに起因する。独立した者達の多くは伴侶を得ながら資金に乏しく、5坪から10坪程度の店舗兼作業場に小型ドライ機とアイロン台という、今から見れば貧弱な設備からのスタートだった。独立した夫妻は借金を返すため、朝一番から夜遅くまで必死になって働いた。

 クリーニングの営業形態の主軸が得意先周り、すなわち訪問外交から取次店やユニット店といった店舗形態に移っていったことは、経営面や経理面でも大きな変化をもたらした。というのも訪問外交の多くが締め払いだったのに対し、店舗は都度払いで、しかも前金払いが普及したことにより仕事前に現金が入ってくる形となった。これは資金回収にリスクのある得意先周りに対し、財務的にも経営的にも大きなメリットとなった。

目次に戻る

2つの確執

 しかしドライ機の登場によるクリーニング業の急速な拡大は、業界内に大きな対立を生み出した。一つは営業形態を巡っての対立だった。クリーニング業にまつわる法律(クリーニング業法)の改正の話が持ち上がり、クリーニングの業界組合「全ク連」は営業店開設の際に「クリーニング師」の資格を義務付けるよう政官界に働きかけた。

 これは資本力、営業力のある業者による取次店展開に危機感を抱いた個人店主や「ユニット店」経営者らが、取次店の拡大に歯止めをかけたいという意図であること明白だった。これに「集中工場」方式の経営者らを中心として反発が起こり、新たに「全国クリーニング協議会」(全協)が結成され、この動きに対峙した。結局法改正はなされず営業店への規制は行われなかったものの、業界内には大きなしこりが残った。

 もう一つはドライクリーニングの溶剤を巡る議論だった。すなわち「パーク」「ゾール」論争である。これは設備は高いが溶剤回収ができるパークか、設備は安いが溶剤回収できないゾールか。あるいは蒸留できて液管理が容易なパークか、引火性があり液管理が容易でないゾールか。洗浄力が高いが高すぎて一部トラブルの発生するパークか、洗浄力が弱いがトラブルが起こりにくいゾールか等々、果てしなき不毛な議論が展開された。

 欧米では既にドライ溶剤はパークに一本化されているのに日本ではそうではないとする論と、日本は素材形状が欧米より繊細でデリケートでありパークだけでは対応できない論との逃れられぬ激突だった。

 後年にはこれに公害問題が加わり「危ないパークに安全なゾール」とか、引火トラブルから「爆発するゾールに安全なパーク」かなどが加わり、ある種の神学論争の域に達してしまい、この話が出る度に辟易したものである。他所から見れば明らかに「両方問題」なのだが、当事者からすると業の根幹に関わることであり、真剣な議論が交わされた。

 昭和40年代から始まったこの2つの対立軸は、20世紀の日本のクリーニング業界をゆり動かす大きなテーマとなった。

にほんブログ村 その他生活ブログ 掃除・洗濯へにほんブログ村 ライフスタイルブログ シンプルライフへにほんブログ村 その他生活ブログ 片付け・収納(個人)へ

-ドライクリーニング略史, 最新情報
-, , , , , , , , ,

関連記事

「効く」以上に大切な事。衣料用消臭剤の選び方

 P&Gの「ファブリーズ」や花王の「リセッシュ」が牽引力となって、消臭剤の用途、市場は急速に拡大している。それとともにインターネットを中心として数多くの種類の「消臭剤」が販売され、どれを選べばよいのか …

カシミアベストをスイトルで水洗してみる

 switle「スイトル」を使った純毛毛布洗浄に合わせ、汚れているカシミアのベストも合わせて洗浄してみることにした。その一部始終についてレポートしてみる。 Contents1 汚れたカシミヤベスト2 …

ドライクリーニングの歴史 6 開花期

 レーヨンを始めとするデリケートで多様な新繊維に対応するため、日本ではパークの研究やゾールを使うなどといった方法を用いたが、石油系溶剤の使えない欧米では全く別のアプローチで対応しようとした。 Cont …


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

Vivente
現役クリーニング事業者。妻と二匹のネコと暮らしながら、整理術やくらし術、生活家電や機器、、著名人のなどの研究を行っている。プロフィールはこちら

    知られざる「タイムズクラブカード」の使い方  タイムズ(Times)と言えば駐車場サービスの大手であり、街のあちこちに時間貸し駐車場が展開している。最近では路上の駐車場に留まらず、店舗の駐車場スペースなどの管理も請け負って「タイムズ駐車場」とす ...

    軟水器アクアソフトAQ-S401 レビュー  エントリー「家庭用軟水器 アクアソフト AQ-S401 概要」や「アクアソフトAQ-S401、ネットの片隅で起こった異変!」で度々取り上げてきたヤマダ電機子会社の住宅機器メーカー「ハウステック」が出 ...

    家からウタマロクリーナーが消えた日  風呂場にあった「ウタマロクリーナー」のスプレー容器が消えていた。妻に「どこにやったの?」と聞いたら、「要らないから捨てた」という。まだ残っていたはずだったのにどうして捨ててしまったのか・・・・・ C ...

    switle「スイトル」の実機レビュー1  以前より注文していた湿式掃除アタッチメント、switle「スイトル」がようやく届いたので早速、開封することとした。 Contents1 重くない箱2 スイトル本体を付属品と繋げる3 給水タンクの構造 ...

    本当にいいのか?日立ビックドラムの「ナイアガラすすぎ」の是非  クリーニング業界で「ナイアガラ」と言えば、東京洗染機械製作所の「ナイアガラドライ」を真っ先に思い出す人も多いだろう。大流量の溶剤を一気に流して洗うのを「ナイアガラの滝」に例えたネーミングだが、今回は ...

    家庭用軟水器三選! 3つの軟水器を徹底比較!  エントリー「家庭用軟水器 アクアソフト AQ-S401 概要」でも書いたように、家電大手ヤマダ電機系列のテックハウスが昨年12月に家庭用軟水器を発売したことによって、ニッチな市場である家庭用軟水器周 ...

    嘘だらけのネット情報。真のアクリル毛布の洗い方  家庭で使われる毛布の中でアクリルの毛布の割合はかなりのものになると思う。クリーニングの需要は年々減りつつも出てくる毛布の殆どはアクリル毛布。家やコインランドリーでも相当程度洗われているのではないかと ...

    家庭用軟水器 アクアソフト AQ-S401 概要  これまで洗濯と軟水の関係についてしばしば取り上げてきたが、あくまで業務用軟水器を使った話だった。では家庭用軟水器があるかといえば、実はなかなかというのが現状である。というのも日本は元々軟水の国で、浄 ...

    正直、アイロンにスムーザーは「要らない」と思う  「スムーザー」とは、花王が販売するアイロン用シワとり剤の名称であり、正式には「キーピング スムーザー」と言って、その名の通り糊剤に位置付けられる製品である。  で、いきなり「要らない」なんてタイトル ...

    アクアソフト AQ-S401 軟水器アクアソフトAQ-S401 イオン交換樹脂の再生  ヤマダ電機系列ハウステック社が販売する家庭向けシャワー用軟水器「アクアソフト AQ-S401」設置から四日目。早くもイオン交換樹脂の再生作業が必要となった。ということで、早速作業に取り掛かることとし ...