ドライクリーニング略史 最新情報

ドライクリーニングの歴史 1 黎明期

投稿日:2017-06-27 更新日:

 ネット上で検索しても全体像がなかなか見えない「ドライクリーニング」の歴史。情報の少ないこの話を業界古老や海外業者からの伝聞ではあるものの、略史という形で数回に分けてまとめておきたいと思う。

 今回はドライクリーニングの誕生からプラント化と有機溶剤の導入に至る経緯まで。

ランプ油がこぼれた話

 油を用いて油を取る技法は産業革命後、欧州で染色業者が編み出したのが最初であると言われている。これも広義の意味では「洗浄」だが、我々の言う「洗濯」ではない。油を用いた洗濯が本格的に登場するのはそれより少し後のこと。

 時は19世紀半ばの話、フランスでは7月王政が倒され第二共和政に移っていた。そんな時代、パリの仕立て屋でそれは起こった。業者の不注意で作業台に置いていたランプが倒れ、お客様から仕立て直しを頼まれた服にランプの油がかかってしまった。

 しまった! 業者は自ら起こした失態に、慌てて服を吊って乾かした。すると油のかかった部分「だけ」が逆にキレイになっていたのだ。ランプ油が服の油膜を溶かし、汚れを除去したのである。業者は驚きつつもその「発見」から研究をはじめ、やがてランプ油を用いた洗濯屋を営むに至る。ドライクリーニングはミスから誕生したのである。

 この洗濯屋は第二帝政下、爛熟した文化のただ中にあったパリで大いに繁盛し、その評判は遠く海外にまで及んだという。しかしこの「ランプ油を使った洗濯」は門外不出の秘技とされ、その技法は長らく店を出ることはなかった。

 その洗濯法の封印を解いたのはドイツの人だった。よく取れる洗濯屋の話を噂を聞いたそのドイツ人は職人として、洗濯屋に潜り込んで働くことに成功する。これは情報漏洩を恐れた業者が、国内事情を分からぬ外国人を採用したかったからだった。

 無事潜入を果たしたそのドイツ人はランプ油を使った洗濯法を知り会得、やがて母国に返ってこの洗濯法をドイツに伝えた。ドライクリーニングの本格的な歴史はここから始まる。

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世界に広がるドライクリーニング

 ドイツに伝えられた油を用いた洗濯法(ドライクリーニング)は急速に広がった。これは水洗に比べて縮みが少なく風合いが損なわれなかったこと、水洗では取れない油汚れが取れることからだろう。

 ドライクリーニングが何故縮みにくいかというと、分子構造が小さく繊維の中に入りやすい水と、分子構造が大きく繊維の中まで浸透しない油との違いで、繊維の中まで到達しにくいことから「膨潤」が起こりにくく、結果縮まない、縮みにくく、風合いの変化が起こりにくいのである。
 
 これらの特性により、それまで汚れれば捨てるしかなかった服、特に毛や絹の動物性繊維を用いた衣料が洗えば着られるようになるということで、大いに歓迎されたことがドライクリーニングの普及の最大の要因だった。
 
 普及に伴ってドライクリーニングは技術的にも発展していく。溶剤としてランプ油だけではなく、ベンジンなども用いられるようになったり、洗濯工程で当初油の桶に服を浸したような形だったものが、水洗で使われていた横型の手回しワッシャーが導入されるようになったりと、徐々に現在の様式に近づいていく。

 こうして発展していったドライクリーニングはフランス、ドイツといった欧州に留まらず、海を越えてアメリカ、そして20世紀に入り日本へと伝播、1907年(明治40年)洗濯屋「白洋舎」がドライクリーニングを始めた。
 
 当初外国人向けであったというドライクリーニングだったが、よく取れると評判を呼び、「洋式洗濯」として普及していく。大正期には既に文献で登場していることから、当時クリーニングも先端文化の一つと見なされていたのだろう。

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ドライクリーニングの発展と転換

 一方、ドライクリーニングが既に普及していた欧米では「ある問題」が浮上していた。それはドライクリーニングに用いられる油での火災である。油は当然ながら引火性があり、よく燃えるのは当たり前の話だったが、普及につれて深刻な問題として受け止められ、引火しない溶剤が求められた。

 その結果登場したのが塩素系有機溶剤「トリクロロエチレン」(トリクレン)を用いた洗浄法だった。トリクロロエチレンは第一次世界大戦後の欧州で植物油の抽出や、工業製品ついた油の洗浄など工業用途で用いられ、それまでの油の比ではない強力な油脂溶解力を持っていた。ただ一方、毒性があったためプラント内で洗浄と乾燥を一元化(洗濯乾燥機化、後のクローズド化)する必要性から、欧米におけるドライクリーニング設備は機械化が進むことになった。

 当時のドライクリーニングの設備は現在のように機械単体ではなく、地面を掘ってタンクを作り(地下槽という)、洗浄ドラムやポンプ、あと清浄装置などを設置する「プラント型」だった。そのため当然ながらクリーニング設備を行うには高額の投資が必要で、資本の蓄積が欧米に劣り国富の少さや動物性繊維を着る機会の少なかった日本では、本格的なドライクリーニング設備を行える業者など手足で数える程度しかいなかった。しかしこれが後の時代、日本のクリーニングが独自の発展を遂げていく遠因となる。

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Vivente
現役クリーニング事業者。妻と二匹のネコと暮らしながら、整理術やくらし術、生活家電や機器、、著名人のなどの研究を行っている。プロフィールはこちら

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